REIKOの紹介文
今回紹介する 斉藤ちささんは、今年の3月に「わっくら」という名のベトナム料理をメインとする店を開業しました。埼玉の秩父地方の方言で‘わをつくる’ことを「わっくら」と言うそうです。ここから始まった小さな輪が‘食’を通じて大きく拡がっていけたら。そう願って名づけられたのでしょうか?私は斉藤さんが二十歳の頃から一人旅をしてきて、行く先々で土地の方々のあたたかい心に触れてきたお話を聞いて、彼女自身が「わっくら」なんだと思いました。 小柄で笑顔が童女のように可愛らしく、いつお会いしても変わらない心からの対応が心地よくて、また会いたくなる。そんな吸引力を持った方です。文中の「先の事ばかり考えていても、どこにも進めない!」というこの思いこそが「わっくら」を生み出したんだ!と私は思います。
斉藤さんの料理には、アジア独特の味と香りのナンプラーや香菜がたっぷり使われ、これが癖になる味だし、当ワタラッパンもカルダモン、シナモン、ナツメグがたっぷり入った不思議な味のデザートです。「癖になる」という共通項でくくれるところが嬉しいですね。皆さんも、是非是非「わっくら」に足を運んでみてください。奥の厨房からのぞく人なつこい笑顔に逢えるはずです。これからも「わっくら」の奮闘を心から応援しています。


斉藤さんのお店『わっくら』の紹介ページはこちらです!

VOL.8 (2004 10.1)

私は今年の3月に長年の夢だった飲食店をオープンしました。
ホームページで「ワタラッパンな女たち」を拝見して、様々な人生を送ってきた女性達がいらっしゃるのだと知り、その事がまた力となりとても有難く思いました。「ワタラッパンな女たち」というタイトルに私自身がふさわしいかは分かりませんが、ここに至った現在、私が感じる事を書いてみようと思います。

「夢とは一体何なのだろう?」物心がついていろんな事を自分で考えるようになって、私は何度そう問いかけてきたのでしょう。そして現在も。
夢に向かって走り出し、自分を主張するようになった20代は体力、気力ともに迷いもなく、ただひたすら興味ある事を吸収していこうとパワーいっぱいでした。20歳の時に一人暮らしを始めて誰にも束縛されない自分だけの空間にウキウキしていた反面、預金など一銭もなく自立する事の厳しさを知りました。当時から車を所有していたので、その維持費もかかるし生活するために必要な物を揃えるにもお金がかかるという事を目の当たりにしました。

飲食店を開きたいという夢は漠然とですがその頃から持っていましたし、何かを始めるにはある程度の資金が必要なのだと思いました。それまでお金に対して無頓着だった私は昼間の仕事が早く終わる事もあり少しでもお金を貯めようと夜もバイトをする事にしました。しかし、お金の為だけにあくせくする性分ではないので小料理屋、スナック、喫茶店、居酒屋といろんなサービス業に携わりながら自分なりにサービス業というものを学び楽しみました。接客だけでなく料理も好きだったので厨房での料理も楽しみました。興味はまず「食道楽」と言われるほど「食」に関してが大半でした。今まで食べたことのない料理、扱ったことのない食材を目にすると物は試しで跳びつきました。それだけでは終わらずその食材の性質やその料理の持つ食文化を調べたりしました。そうなると、その料理を盛り付ける器から次はその土地柄とどんどん追求して行きました。そのきっかけは、中学生の頃に家族で旅行した沖縄にあったように思います。沖縄料理、琉球文化、沖縄の音楽、沖縄に関する事には取り敢えず首を突っ込みたくなりました。自分と同じように沖縄に興味を示す人達にも興味が湧きました。

しかし、30歳を迎え、暖かい家庭を築くことも夢だった私は突然、弱気になりました。飲食店を開きたいという夢は捨てきれないでいましたが、20歳代の頃の自分のままで本当にいいのかと考える事が多くなりました。20歳代は昼も夜もがむしゃらに働いていたのが、夜のバイトを辞めて急に自分の時間が持てる様になったからでしょうか。ふと立ち止まって物事を見つめるようになりました。余計な事も考えるようになりました。一人暮らしを始めて10年も経っていたのに、無性に人恋しくなりました。自分が一体何を一番望んでいるのか分からなくなりました。それまで前しか見えなかったのが、人の流れについて行く事だけで精一杯でした。
そんなある時、仕事場で一週間の休暇をもらえた事もあって、前々から興味があった東南アジアへ旅行する事を決めました。そして初めての海外旅行がベトナムでした。たまたま知り合いの奥さんがベトナム人で、いろいろと情報を聞き、旅行前から期待で胸がいっぱいでした。‘cho’(チョー)と呼ばれる市場での人々の姿はどこか沖縄の人達と似ていました。生きていく為に必死で物を売ろうとするところ、かと思えば仕事が終わった途端に酒をあおり話し声や笑い声が聞こえてくる。
ベトナムの朝はとても早く、5時くらいから車のクラクションが鳴り始め、7時にはバイクや車で道路がいっぱいになり、人々は活動を始めます。ベトナム人は人なつこくてとても愛嬌があります(中にはお金目的で近づいて騙そうとする人もいますが)。料理は美味しくて私は完全にベトナムの虜になり、店をオープンするまでに4年連続でベトナムへ行きました。

この事で、がむしゃらに突っ走ってきた自分を見つめ直す時間を与えられ、今となっては良かったと思っています。今まで気づかなかった事がだんだんと見えてきたからです。一人でも生きて行ける力を身につけたいとずっと思っていました。しかし一人では生きては行けないことを改めて思い知らされました。仲間がいて初めて自分の存在を知り、支えられている事に感謝せずにはいられませんでした。
そして32歳を迎え‘店か結婚か’で悩んでいる頃に親友と沖縄に旅行しました。沖縄を訪れるのは5年振りで、沖縄に住んでる友達に逢うのも久し振りでした。気さくな彼女の一言が私の心を決めさせました。「店を開くか、結婚するか、どちらが先なんて考えていたら何もできないさあ、やりたい事を先にすればいいさあ、店を開いてからでも、結婚だの出産だのなんとかなるさあ」そうかあー。先の事ばかり考えていてもどこにも進めないのだと気づかされました。それから何かが吹っ切れたように気が楽になり、自分の興味あるもの、作りたい料理を提供できる飲食店を開業したいという夢に向かって歩き出しました。そして今日に至ります。

今、私は良きスタッフに恵まれ友人、知人を始めとするたくさんの人達に支えられている事に心から感謝しています。まだまだ未熟で、本音を言えば夢が達成したという実感はなく、とうとう蓋を開けてしまったという思いです。自営業というのは大変なものだと聞かされていましたが、本当にそれを痛感してます。でも一度開けてしまった蓋を簡単に閉じることはできません。何故なら、その蓋を開ける為には私自身の力だけではどうにもならなかったからです。店の物件が決まり、施工が始まった時から、この店にはいろんな人達の思いが詰まっているからです。
夢とは永遠に続くものだと思っています。20歳代のころの勢いとは違いますが、今後も現実と戦いながら、ゆっくりと先へ進んで行きたいです。

斉藤 ちさ(2004 10.1)

斉藤 ちさ プロフィール
●出身地:東京 ●血液型:A型 ●趣味:スポーツ観戦(バスケとバレーは自らもやります)・音楽鑑賞(ブラジル音楽、キューバ音楽、沖縄音楽、ケルト音楽) ●好きなアーチスト:BOOM 宮沢和史 ●好きな食べ物:たくさんありすぎて答えられない 特に甘いもの一般

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